マンションの賃貸化が進む中、区分所有者(オーナー)ではなく、賃借人(テナント・入居者)による管理規約や使用細則の違反行為に頭を悩ませる管理組合が増えています。 本記事では、賃借人への対応手順と、法的措置をとる際の重要な手続きについて解説します。
1. 賃借人にもルールを守る義務がある
まず大前提として、賃借人は「自分は所有者ではないから規約は関係ない」と主張することはできません。
標準管理規約の定め 占有者(賃借人等)は、建物や敷地の使用方法について、区分所有者が規約や総会決議に基づいて負う義務と「同一の義務」を負います。
区分所有法の定め 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第6条第3項においても、占有者は建物の使用に関し、区分所有者と同一の義務を負うとされています。
したがって、管理組合は賃借人に対しても、堂々とルール順守を求める権利があります。
2. まずは「区分所有者(オーナー)」に是正させる
トラブル発生時、管理組合が直接賃借人と対峙する前に、まずは「区分所有者(貸主)」に責任を果たさせることが重要です。
貸主の責任 区分所有者は、専有部分を第三者に貸与する場合、その第三者に規約や使用細則を守らせる義務があります。
誓約書の提出 標準管理規約では、区分所有者が賃貸借契約を結ぶ際、相手方(賃借人)から「規約及び使用細則を遵守する旨の誓約書」を提出させ、それを管理組合に出すことを義務付けています。
もし区分所有者が「借りている人のことだから自分は知らない」と放置した場合、区分所有者自身が「管理規約違反(第三者に遵守させる義務の不履行)」を問われることになります。
3. 具体的な対応ステップ
違反行為が続く場合、以下の段階を踏んで対応します。
ステップ1:事実確認と記録
いつ、誰が、どのような違反をしたか(騒音の日時、ゴミの写真など)を客観的に記録します。
ステップ2:区分所有者(貸主)への連絡と是正要求
区分所有者に対し、賃借人の違反事実を伝え、是正させるよう求めます。多くのケースでは、オーナーから賃貸管理会社(マンション共用部の管理会社ではありません)を通じて注意してもらうことで改善します。
ステップ3:理事長名での勧告・指示
改善が見られない場合、理事会の決議を経て、理事長名で賃借人および区分所有者に対し、是正のための勧告・指示・警告を行います。
ステップ4:法的措置(差止め・契約解除・引渡し)
それでも違反が止まらない場合、管理組合は弁護士に相談して法的措置を検討します。ここからは総会決議が必要となります。
行為の停止請求(区分所有法57条) 違反行為の停止や予防措置を請求する訴訟です。
必要な決議: 一般的に普通決議(出席組合員の議決権の過半数)で行います。
賃借人と区分所有者の双方に対して請求可能です。
契約解除及び引渡し請求(区分所有法60条) 違反行為により「共同生活の維持が著しく困難」であり、他の方法(行為の停止請求など)では解消できない場合に認められる強力な措置です。管理組合がオーナーに代わって賃貸借契約を解除し、部屋からの退去(引渡し)を請求します。 この措置を行うには、以下の非常に厳格な手続きが法律で義務付けられています。
弁明の機会の付与: 総会決議の前に、あらかじめその賃借人(占有者)に対し、言い分を聞く「弁明の機会」を与えなければなりません。
特別決議: 総会において、組合員総数および議決権総数の各4分の3以上の賛成が必要です。 ※2026年4月からは総会出席者の各4分の3以上の賛成が必要です。
4. 予防策:管理規約の整備
トラブルを未然に防ぐため、以下の規定が管理規約(または使用細則)に盛り込まれているか確認してください。
誓約書の提出義務化:賃貸時に、入居者から「規約を守る」という誓約書を出させる条項。
連絡先の届出:賃借人の緊急連絡先だけでなく、オーナーが遠隔地に住んでいる場合の連絡先把握。
まとめ
賃借人のマナー違反に対し、管理組合は泣き寝入りする必要はありません。まずは「オーナーの監督責任」を問うことから始め、改善しない場合は理事会決議を経て法的措置を検討します。 特に「契約解除・引渡し」という最終手段には、「弁明の機会」と「特別決議」という高いハードルがあることを理解し、日頃から証拠の記録や手順を踏んだ対応を積み重ねることが不可欠です。また、管理規約の棚卸と改正、名簿の日ごろの整備等が大切です。
次回は名簿の整備についてです。
------
「管理組合の運営がよくわからない」「自分のマンションの資産価値が不安だ」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの資産を、法務と実務の両面からバックアップいたします。
0 件のコメント:
コメントを投稿