高田マンション管理士事務所です。前回の記事に続き、2026年4月にスタートする「管理不全専有部分管理命令制度」を実際に運用する際の注意点とリスクを整理します。
この制度は強力な手段ですが、実務上はいくつかの高いハードルが存在します。先行する管理不全所有建物管理制度の実態を踏まえて、管理組合として事前に理解しておくべき4つのポイントを解説します。
1. 居住者がいる場合の「拒否」への対応
この制度の最大の課題は、部屋の持ち主がそこに住んでいて、管理人の立ち入りを強く拒んだ場合です。
裁判所は、管理人を選任しても「実際に部屋に入って管理を行うことが困難(実効性がない)」と判断した場合、申し立てを却下することがあります。
この制度には、住んでいる人を強制的に追い出す権限(明渡執行)までは含まれていません。
持ち主が「自分で片付ける」と具体的な主張をした場合、個人の権利保護の観点から裁判所の判断は慎重になります。
2. 高額な予納金と回収のリスク
制度を利用するためには、管理組合が最初にまとまった費用を準備しなければなりません。
裁判所に納める「予納金」として、数十万から100万円程度の負担が必要になるケースがあります。
管理人の報酬や、清掃にかかる実費、弁護士費用なども、まずは管理組合が立て替えることになります。
最終的にこれらの費用を持ち主に請求することは可能ですが、本人に支払能力がない場合、管理組合が最終的なコストを負担する(持ち出しになる)リスクがあります。
3. 持ち主の同意がない「売却」は不可
「部屋を売って、その代金で管理費用を回収したい」と考えても、この制度だけでは解決しません。
管理人が部屋を売却(処分)するには、必ず「持ち主本人の同意」が必要です。
「持ち主がどこにいるか分からない場合(所有者不明)」の制度とは異なり、本人が判明しているこの制度では、本人の意思を無視して売ることは認められません。
4. 客観的な「実害」の証明
裁判所に申し立てを認めてもらうためには、管理組合側で確実な証拠を揃える必要があります。
「部屋が汚い」という主観的な理由だけでは不十分です。
悪臭、害虫の発生、水漏れ、あるいは火災の危険など、他の居住者の権利を具体的に侵害していることを証明しなければなりません。
専門家による調査や報告書の作成など、申し立て前の準備に手間とコストがかかります。
まとめ:戦略的な判断が求められます
管理不全専有部分管理命令制度は、話し合いが通じない相手への対抗手段になりますが、以下の点を踏まえた検討が必要です。
居住実態の確認:本人が住んでいる場合は、民事訴訟(妨害排除請求や区分所有法第57~59条など)による方法も視野に入れる必要があります。
コストの検討:予納金や調査費用などの総額を計算し、管理組合の予算内で対応可能か判断します。
証拠の蓄積:日頃から苦情の内容や、漏水などの被害状況を記録に残しておくことが重要です。
この制度はあくまで「他人の迷惑にならない状態を維持する」ためのものです。問題の根本解決(所有者の変更など)には、別の法的手段が必要になる場合があることを忘れてはいけません。
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